かつて日本には、都心から少し離れたリゾートマンションの1階に高級レストランが並び、住宅街の片隅には個人経営の飲食店が立ち並ぶ、そんな風景が当たり前のように存在していました。しかし、今ではそれらの多くが姿を消し、新しい用途へと姿を変えています。
リゾートマンションと高級店舗の栄枯盛衰
1980年代から90年代初頭にかけて、リゾートマンションブームが日本を席巻しました。その象徴として、マンションの1階に設けられた高級レストランやバーは「非日常の生活空間」を演出し、所有者のステータスを象徴する存在でした。しかしバブル崩壊後、リゾート需要の急落とともにそれらの店舗は次々に閉店。
- リゾート利用者の減少
- 管理費や家賃の高騰
- 観光客・外部客の不足
といった要因が複合的に作用し、現在では空きスペースや住戸転用、あるいは倉庫化されている例が目立ちます。
住宅街の飲食店が消えた理由
駅から離れた住宅地にもかつては定食屋、中華屋、喫茶店といった店舗が点在し、地域住民の交流拠点となっていました。ところが、これらも今や風前の灯です。
主な要因には:
- 共働き世帯の増加による昼間人口の減少
- 郊外型チェーン店・大型商業施設への集客集中
- SNSやグルメサイトによる飲食店の選別圧力
- 店主の高齢化と後継者不足
などがあり、特に「平日の昼に客がいない」という構造的問題が、地域の個人店舗を苦しめました。
西新宿の温泉街
ちなみに、かつて東京の西新宿には「温泉街」が存在していました。新宿という都心から程近い場所で、日常生活の中に温泉を取り入れるというユニークな文化があったのです。1960年代から1980年代にかけては、ビジネスマンや観光客が集まる場所として、温泉施設が多く立ち並びました。しかし、高度経済成長の終息とともに、都市化が進み、西新宿の温泉街は次第にその姿を消していきました。
この変化には、都市の再開発とビジネス・住宅需要の変化が影響しています。温泉街に代わって、オフィスビルや商業施設が立ち並び、新宿はさらにビジネスエリアとして発展しました。
消えたものの代わりに発展したもの
こうして空いたスペース、あるいは変化した需要を埋める形で、以下のような業種・施設が急速に発展しています:
- コンビニ・ドラッグストア・ファストフード
- クリニック・調剤薬局・訪問介護拠点
- 保育所・高齢者施設
- サテライトオフィス・コワーキングスペース
- 賃貸アパートや小規模集合住宅
つまり、非日常や社交の場が求められていた時代から、「生活機能」としての利便性が重視される時代への転換です。
専業主婦から共働きへ──街の機能が変わった
背景には明確な社会構造の変化があります。かつて、専業主婦が日中を地域で過ごすことが前提だった時代には、住宅街の飲食店や地元商店が生活と交流の場として成立していました。
しかし共働きが一般化した現在、
- 昼間は住宅街が空洞化
- 時短・効率・在宅を前提としたサービスが優位
という条件が、街の機能そのものを変えました。今求められているのは、”生活を回す”ためのインフラであり、”娯楽”や”交流”の場は二の次になりつつあります。
まとめ:都市の記憶とこれからの再編
都心近くのリゾートが消え、住宅街の飲食店が姿を消したその跡地には、今、新たな都市機能が芽吹いています。それはどれも”生活密着型”であり、時代のニーズを反映したものです。
街は生き物であり、人の暮らし方が変われば姿を変えます。過去の風景を懐かしむと同時に、いま求められている機能に目を向けることが、これからの街づくりや不動産活用にとって不可欠なのかもしれません。






