最近またもや、「食料品を消費税ゼロにしたら5兆円の税収減になります」というありがたい“試算”が話題になっている。
財政の健全化が〜、社会保障が〜、というお決まりのセリフとともに。
でも、ちょっと待って。
私たちが消費税について習ったのはいつだろうか。高校の政経?それとも簿記の授業?
たしか、「消費税は仕入税額控除方式で、最終消費者だけが負担する税」って、習ったよね?
それ、どこ行った?
■ ざっくり計算してみましょうか
「食料品ゼロにしたら税収が5兆円吹っ飛ぶ!」というのは、食料品の年間消費支出が約70兆円あるとして、
70兆円 × 8%(軽減税率)= 5.6兆円
……という、小学生でもできそうな計算に基づいているらしい。
なるほど、確かに見た目の売上税額はそうなる。
でも、これ**「仕入税額控除」の仕組みを完全に無視**してるの、気づいてる?
しかも不思議なことに、この超重要な視点にマスコミもコメンテーターも誰一人として突っ込まない。
「減収!大変だ!」という大合唱に、誰も「ちょっと待って、それ控除考慮してる?」とは言わないのだ。
仕入控除?なにそれおいしいの?という顔で、今日もニュースは流れていく。
■ 仕入控除ってなんでしたっけ?
消費税って、売上に対する税額から仕入にかかる税額を引いて納める仕組み。
つまり、最終消費者が負担して終わる設計。
もし食料品がゼロ税率になったら、
- 売上にかかる消費税:ゼロ
- 仕入や経費にかかる消費税:控除できません
事業者にとっては「仕入税額控除」が使えなくなる=その分、コストになる。
これ、国にとっては増収要因なんですよ。
■ ざっくりモデルで再計算してみる
- 食料品の売上:70兆円
- 軽減税率:8% → 売上税額は5.6兆円
- 仕入原価率:60% → 仕入部分は42兆円
- 仕入れにかかる消費税(8%):3.36兆円
つまり、食料品をゼロ税率にすると、
- 売上税額の減収:▲5.6兆円
- 仕入控除ができなくなる:+3.36兆円(国に残る)
正味の減収:5.6 − 3.36 = 約2.2兆円
あれ?「5兆円」どころか半分以下なんですけど?
■ それでも「5兆円減収」って言い張るのはなぜ?
答えは簡単。控除分を見せると都合が悪いから。
- ゼロ税率にしても、すべての税収が吹っ飛ぶわけではない
- 「コストとして残る」ことで、国には一定の増収が発生する
- 本当はそこまでの大惨事じゃないことがバレる
だから、「控除の話」は静かに棚上げされる。
そしてそれに、マスコミも有識者もなぜか誰もツッコミを入れない。
あれだけ「税金の使い道を監視するぞ!」と息巻いていた人たちが、
控除ひとつ無視されてもノーリアクション。これが日本の「議論」だ。
■ 最後にひと言
もちろん、税制は簡単な話ではありません。でも、せめて「仕入控除」の話を抜いたまま「5兆円減収」と言い切るのは、不誠実すぎやしませんか。
私たちが納める消費税、
その構造くらい、ちゃんと踏まえて議論してほしい。
せめて、簿記3級レベルでは。
