最近、政治の話題でまた「食料品の消費税をゼロにしよう」という話が出ています。選挙が近いとよく出てくるこの話。確かに生活が苦しいなか、消費税ゼロと言われれば、耳障りはいい。でも、税率だけゼロにしても、それだけじゃまったく意味がないんです。
なぜか?
消費税率ゼロでも、「仕入税額控除」ができなければ事業者は損をする
たとえば、スーパーが野菜や米を仕入れ、店を維持するために光熱費や設備投資を行う。このとき、それらの支出にはちゃんと消費税が乗っています。今なら販売時にかかる消費税と相殺(=仕入税額控除)できますが、販売側の消費税が「ゼロ」になると、この控除ができなくなるおそれがある。
結果どうなるか。
事業者がその分の消費税をまるごと被ることになるんです。つまり、表向きは「消費税ゼロ」でも、裏側では事業者のコストが増える。そのツケはどうなるかといえば……商品価格に上乗せされるか、サービスが縮小されるか、労働環境が悪化するか。どこかで必ず跳ね返ります。
住宅の家賃がまさに「実質ゼロじゃない」例
この話、架空の理屈じゃありません。すでに日本で起きていることなんです。
住宅の家賃は「消費税非課税」とされています。つまり、税率ゼロです。でも、大家さんが建物を建てたり、修理したり、管理したりするのにかかる経費には当然、消費税がかかっています。
それらについては、まったく控除ができません。その分、大家の負担になる。そして最終的には、家賃に含まれるか、サービスの質が下がる。要するに、税率はゼロでも実質的にはゼロじゃないということです。
メディアも政治家も、なぜそこを突っ込まない?
正直言って、これってかなり重要な話なんです。税制の肝の部分。にもかかわらず、テレビの討論番組でも、政治家のスピーチでも、記者の質問でも、この点に誰も突っ込まない。
理解していないのか、あえて言わないのか。それとも、票にならない「地味な真実」は誰も興味がないのか。いずれにせよ、消費税を語るなら「仕入税額控除」抜きでは語れないということは、もっと知られるべきです。
「ゼロ税率」と「非課税」はまったく別物
そもそも税制上、「ゼロ税率」と「非課税」は全然違う制度です。ゼロ税率なら仕入税額控除はできる。非課税ならできない。住宅の家賃は後者。だからこそ、「食料品をゼロに」と言うなら、きちんとゼロ税率にして、控除も全部認める制度設計が必要なんです。
まとめ:本気で減税するなら、制度の裏側までちゃんとやってくれ
表面的な「消費税ゼロ」のスローガンだけで終わらせるのではなく、事業者の現実や税制の仕組みまで踏み込んで議論することが不可欠です。
そしてメディアも、政治家も、コメンテーターも、耳触りのいいことばかり言っていないで、こういう突っ込むべきポイントをきちんと突っ込んでほしい。
それが「本当に生活者のためになる税制」への第一歩なんじゃないでしょうか。